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はじめに
ご飯やおかずをたくさん盛りすぎて、食べきれずに残した分を捨ててしまった経験、ありませんか? もったいないですよね。食べられるのに捨てられる食品を、フードロスといいます。
実は日本はフードロス大国。食糧自給率は4割以下で食品を大量に輸入しているにも関わらず、年間643万トンものフードロスを出しています。その半分以上は食品関連事業者から発生。節分に売れ残った恵方巻きの大量廃棄がニュースにもなっていましたね。
こうした状況への対策として2019年10月から「食品ロス削減推進法」が施行されました。「納品期限の緩和」「賞味期限の延長」などを推進する予定ですが、そこでキーワードとなるのが「フードチェーン」。何のことか、わかりますか?
「フードチェーン」とは、生産・加工・流通・販売・消費の流れのこと!
フードチェーンというのは、食品が消費者に届くまでの一連の流れのこと。野菜・果物・肉・魚など全ての生産物は、生産(原料を作る)→加工(加工して製品化)→流通(製品を運ぶ)→販売(小売店等で売る)のステップを経て食卓に届きます。また、廃棄物のリサイクルから新たな生産が生まれます。かつては、各事業者はお互いのことをよく知りませんでした。つまり、販売業者は店頭のトマトを育てている農家が誰なのか、豆腐メーカーは自社の豆腐がどの店で売っているのか知らない、という状態です。食品は他の商品に比べると短期間で品質劣化のリスクが生じます。そこで賞味期限を短めに設定し、リスクのあるものは返品処分できる商慣習ができ、そのままずっと続いてきました。お互いの情報が見えない昔なら、リスク回避のためには仕方なかったのかもしれませんね。
フードチェーン全体で情報を管理すると、フードロスを解消できる!?
今はあらゆる分野でデジタル化による情報管理が進んでいます。野菜を作った農家はどこか、収穫はいつか、保管中の温度・湿度など、各事業者が商品価値に関わる情報を共有し、フードチェーン全体で品質を維持するしくみづくりが進みつつあります。実際にカット野菜メーカーが集荷・加工・貯蔵の全プロセスを4〜5℃で徹底管理したことで、消費期限を2倍に伸ばすことに成功。店頭でのフードロスが削減した事例があります。また、土用の丑の日のうなぎを完全予約制に切り替えることで、売上げは2割減少したものの利益は7割改善したコンビニ事例も。適切な量の発注ができ、廃棄コストを削減できたんですね。
こんな風にフードチェーン全体を捉える分野は、経営学部や商学部に関係ありそうですよね。でも食と生産そのものに関わる農学部にもリンクしているんです。
食のジェネラリストを育成する新潟食料農業大学とは?
食・農・ビジネスを一体的に学ぶ「食の総合大学」として2018年に開学した新潟食料農業大学。めざす人材像は、フードチェーンを深く理解した「食のジェネラリスト」です。
食料産業学部食料産業学科では、4年間をかけてフードチェーン全体を理解します。1年次でフードチェーンの基礎を学び、2年次で作物をつくる「アグリコース」、食のニーズに応える「フードコース」、つくると食べるをつなぐ「ビジネスコース」の3コースから所属コースを選択します。
また、農学系大学の課題だった「研究志向>現場志向」を解決するため、自治体や農家と学びの実践に挑戦します。さらに、企業の全面協力を得た独自のインターンシップを在学中2回実施。1年次はフードチェーン全体から複数企業を訪問し、2年次のコース選択に活かします。3年次では所属コースに応じた企業へ。専門知識を現場で活かす体験を通じて就業イメージを培います。
フードチェーンを俯瞰しつつ、一員となって働く経験が「食のジェネラリスト」を育てるんですね。
食の都新潟だから、豊富なノウハウを実地に学べる!
新潟食料農業大学のある新潟県は、米の産出額、枝豆作付面積、ナス作付面積が全国1位! 農業力は全国トップクラスです。さらに、酒蔵の数、米菓の出荷額、切り餅・包装餅の出荷額も全国1位! 食品製造力も全国屈指の、まさに「食の都」なんです。こうした食のトップランナーの方々から、現場ならではの情報やノウハウを提供いただく機会が豊富に設けられています。
また、2011年からスタートした新潟市の「新潟ニューフードバレー構想」は農業を含めた食産業全体が連携し共に成長し発展することをめざしており、これを後押しする形で2014年からは新潟市が「大規模農業の改革拠点」として国家戦略特区に指定されるなど、新潟と新潟食料農業大学のビジョンはぴったり一致しています。フードチェーンへの理解を深めるのに、新潟県・新潟市は最適なキャンパスと言えそうです。
「食と香りと化粧品」の連携で資源のムダを減らす!東京農業大学の研究
東京農業大学の生物産業学部は北海道オホーツクキャンパスにあります。北の大地は、農業・畜産の大地。この地で、全国有数の農林水産業、食品加工業、流通業と連携した「寒冷地農場」「オホーツク臨海研究センター」「食品加工技術センター」等の附属施設を活用し、フードチェーンを体験しながら実学に取り組んでいます。その一例として、食香粧化学科は、ダチョウの次に大きな鳥「エミュー」の食品や化粧品への利活用にも取り組んでいます。エミューは寒さにも強く、繁殖力が高く、飼育がとても簡単です。肉は高タンパク・低カロリーで鉄分が豊富なスーパーフード!低コストで育つエミューの新規産業モデルの構築が考えられているのです。食香粧化学科では、もも肉を使ったフランクフルトソーセージやクビ肉を使ったジャーキーを開発しました。一方、エミューの生息地オーストラリアのアボリジニの間では、古くからエミューオイルを傷薬などに利用されていましたが、食香粧化学科では、その抗炎症メカニズムを初めて解明、機能性化粧品としての価値を明らかにしました。エミューの他にも、茶色く変色してしまったナガイモや南米特産の果実カムカムの皮、乾燥ホタテ貝柱の副産物など、生産過程で発生する廃棄物を未利用資源として食品や香料、化粧品素材として活用する研究に取り組んでいます。食香粧化学科では、生物資源を食品だけでなく香料や化粧品としても活用することでフードロスを解消する「フード・コスメチェーン」を提唱しています。
食農ビジネスを理論・実態の両面から学ぶ摂南大学とは?
京阪神から通学可能な都市圏で食・農分野を学べる摂南大学。食農・バイオ技術を駆使し、企業と共同で新たな機能性食品や加工食品の開発にも取り組んだり、食農ビジネス分野を専門とする専任教員とともに、フードチェーンの現場で食農ビジネスの流れを体験できます。
中でも食農ビジネス学科は文理融合分野として、経済・経営学からも食・農にアプローチ。フードチェーンのプロセスを「フードシステム論」「食農共生論」などの専門科目で理論・実態の両面から学びます。マーケティングや経済の観点から課題解決のできる、地域社会・国際社会の両方で活躍できる人材を育てます。
また、農学部のある枚方キャンパスは、「食・バイオ・医療・健康」をテーマに薬学部や看護学部と連携した学びを展開しています。フードチェーンがさらに発展し、医療や健康にもリンクする新しいシステムが摂南大学から生まれるかもしれませんね。
おわりに
農作物や畜産物の生産だけでなく、加工・流通・販売といったフードチェーン全体を含めて学ぶ「農学」もあることを紹介してきました。「フードチェーン×農学」で、人の生活を豊かにしたり、食糧問題や健康を解決したり、新しいビジネスモデルを提示したりと、さまざまな可能性が広がります。大学選びのキーワードにぜひ加えてみてください。