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はじめに
おとぎ話に出てくる魔法のじゅうたん、SF映画に出てくるホバーボードや自在に飛べるロボットスーツ……。人々は昔から空を自由自在に飛び回ることに夢を抱いてきました。あらかじめ行き先や時間が決まっていて自分がそれに合わせなければならない飛行機などとは違い、まるで自家用車のように自分の行きたい場所にラクラクと飛んで行ける乗り物があれば、どれほど便利でしょう!実は、フィクションの世界だけに存在すると思われていた「空飛ぶクルマ」をはじめ、新しい交通手段の実用化に向けて研究が急ピッチで進んでいるんです。実現すると私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか?
乗り物は便利である反面、さまざまな問題も……
「遠くへ行きたい」「もっとモノを運びたい」そんな思いを叶えるために、人類はさまざまな乗り物を生み出してきました。大航海時代には造船技術が発達し、人々の活動範囲が広がりました。産業革命期には蒸気機関車がつくられ、鉄道網によって物資を大量に運搬できるように。18世紀後半には、自動車が誕生。さらに19世紀はじめにはライト兄弟が飛行実験に成功し、空を移動する手段をも手に入れたのです。
しかし便利になっていく一方で、乗り物を取り巻く社会問題も増えました。たとえば自動車の渋滞問題。とくに都市部では交通量が多く、しばしば渋滞が発生します。移動や物資輸送にかえって時間がかかり、排気ガスや騒音などによる環境への影響も問題になっています。また交通事故のリスクも無視できません。鉄道においても人々の生活圏やニーズが多様化する中で、いかに利便性・移動時間の効率化・安全性を叶えるかといった議論が続いています。
このような交通に関する問題を解決するための学問が「モビリティ研究」です。鉄道、自動車、ドローン、ロボット、システムなど研究分野は多岐に渡りますが、「誰もが行きたい時に行きたい場所にラクに行ける」ーーそんな“次世代交通システム”を実現するためにモビリティ研究は進化しているのです。
未来の乗り物は、さまざまな社会問題を解決するため「空中」へ
“次世代交通システム”を考える上で、もっとも期待されているのは「空飛ぶクルマ」ではないでしょうか。映画やアニメでもよく登場する夢の乗り物が実現すれば、空中を移動することで渋滞問題を解消、移動・輸送時間の短縮が可能になります。さらに、人が足を踏み入れられない災害発生地域などでの人命救助活動が可能になるといった、幅広い社会問題のソリューションとしても期待されています。
“空中”を利用した新たな都市航空交通システムは「アーバンエアモビリティ(=UAM)」と呼ばれ、とくにその主役として電動垂直離着陸機「eVOL」に注目が集まっています。ドローンと電気自動車の技術を組み合わせたeVOLは騒音が少なく、滑走路がなくても離着陸できること、自動操縦で安全性にも優れていることから人口が密集する都市での移動に適していると言われています。
“次世代交通システム”を阻む課題
eVOLを含む“次世代交通システム”を実現するには、技術的課題だけでなく、安全基準や法律面を整える必要もあります。eVOLの場合、ドローンのプロペラによる風切り音の騒音問題を考えなければなりません。また大型の作業用ドローンなどに使われる無線電波帯は、現在の電波法では国家資格が必要など一般利用が難しく、法律の整備も考える必要があります。
鉄道分野でも課題があります。タッチレス改札や顔認証改札などの乗降システムの開発が実用化に向けて進んでいますが、セキュリティやプライバシーをどう守るのかという議論もあり、“社会の受け入れ体制”という点でも整備を考えなければならないと言われています。
工学的な視点から最先端研究が行われる工学院大学
幅広い分野での研究が必要な“次世代交通システム”の実現に向けて、さまざまなモビリティ研究のエキスパートが最先端研究を行っているのが、工学院大学です。
自動車音響振動研究室の山本崇史教授は、機械工学の観点から自動車の音や振動を減らして自動車を快適にする技術を研究。音を吸収する材料の設計や配置する場所の最適化などを、コンピュータシミュレーションなどを使って明らかにし、次世代の快適な乗り物づくりの技術に取り組んでいます。
また、ロボットのシステム開発に取り組む羽田靖史准教授は、災害対応ロボットの技術開発と同時にドローンやロボットの実用化に向けた法整備もにも携わっています。
電気鉄道システム研究室の高木亮教授は、電気電子工学の観点からパワーエレクトロニクス(電力変換と制御技術)、情報通信技術、蓄エネルギーシステムを組み合わせた次世代の効率的な電気鉄道システムの実現に向けて取り組んでいます。
それぞれのテーマにおいて、新しい技術・システム・仕組みを生み出すことで叶えられる“次世代交通システム”。工学院大学での最先端研究により「誰もが自由に楽に移動できる」未来の街は、私たちのすぐ目の前まで来ています。
日本工業大学による自動運転バス・パーソナルモビリティの実証実験
私たちの自宅と最寄りの鉄道駅を結ぶ路線バス。しかし本数が少なかったり、自宅からバス停までの距離が離れていたりといった課題があり、とくに住民の高齢化が進む地域では問題はより深刻になりつつあります。日本工業大学 ロボティクス学科の鈴木宏典教授の研究室では自動車の安全運転を支援する技術開発に取り組んでおり、いつでも誰でもスムーズに移動するための取り組みを始めています。
2020年の2月には埼玉県川口市の「SKIPシティ」において、自動走行するパーソナルモビリティの実証実験を実施。これは、バス停から自宅に向かう道のりにおいて利用者が呼び出すとパーソナルモビリティが自動で迎えに行き、目的地まで連れて行くというもの。同時に自動運転バスの実証実験も行われ、地震発生時の車両停止や押しボタン信号との連携などが検証されました。日本工業大学でのモビリティ研究では、実社会の課題と最先端研究を掛け合わせた実践的な学びを通して、知識・技術を磨くことができます。
神奈川工科大学による「超成熟社会に向けたクルマの知能化」研究とは?
日本の交通事故の総数が減る一方、高齢ドライバーによる交通事故件数は増加しています。加齢による身体能力の低下が主な原因ですが、公共交通機関に恵まれない地方では買い物や通院に自家用車は欠かせず、止むを得ず運転を続ける高齢者も多くいます。こういった社会問題を解決するため、神奈川工科大学 創造工学部 自動車システム開発工学科の井上秀雄教授の研究チームは、ドライバーとクルマが強調することで安全運転を実現する技術開発に取り組んでいます。
井上教授が目指すのは、AI(人工知能)による完全な自動運転車ではなく、リスク予測を行う「先読み運転知能」と、ドライバー運転能力を察知して支援の程度を判断する「人間機械協調」技術を組み合わせることで、運転の楽しみと安全性を両立できる自動車。トヨタ自動車で車両制御システムの開発に携わってきた井上教授をはじめさまざまなエキスパートと最先端技術を生み出す感動を味わえることこそ、神奈川工科大学でモビリティ研究を行う醍醐味だと言えるでしょう。
おわりに
誰もが、自由に安全にそして楽に移動できる社会のベースとなる“次世代交通システム”。「空飛ぶクルマ」をはじめとした“次世代交通システム”を叶える新しい技術は、決して手の届かない夢物語ではなく、すでに実現が間近に迫っています。モビリティ研究は、そんな素敵な未来をカタチにするために欠かせない学問。未来の乗り物、街、社会づくりに興味がある方に、ぜひ注目してほしい分野だと言えるでしょう。