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はじめに
少し前まで「ロボット」と言えば、工場で溶接・塗装を行なったり、部品を組み立てたりといった産業用ロボットがメインでした。しかし今、お掃除ロボットや接客をする人型ロボットなど、私たちの暮らしを身近でサポートしてくれるロボットがたくさん生まれています。少子高齢化による働き手不足や介護問題に、ロボットの活躍が期待されているのを知っていますか?さあ、“次世代のロボット”が叶える未来を一緒に想像してみましょう!
AI×ロボットで、ロボットに「個性」が生まれる!?
プログラム通りの動作を寸分の狂いなく行うことを得意としてきた、従来のロボット。そんなロボットにAI(人口知能)を組み込むことで自ら学習できるようになり、正確な動作を行うだけでなく、さまざまな変化に対応したり、ベストな動作を判断したりすることが可能になります。例えば人型ロボットにAIを組み込むと、最初はぎくしゃくした動きを繰り返したあと、少しずつ滑らかに動くように。自身の体を「動かしたタイミング」と「視野に入った動き」をもとに、思い通りに動かす方法を学習するのです。さらに人間がロボットにモノの動かし方を見せることで、どうモーターを動かせば良いかも習得します。
このようにAIを組み込むことで、ロボットは自己学習で環境に合わせてどんどん最適な動作を覚えていきます。つまり、同じロボットでも周囲の環境や扱うモノによって数年後にはまったく違う動きをするようになり、結果的に人間の想像を超えた動作や効果が発生する可能性もあると言えるでしょう。そのため人間は今後、ロボットの「制御」ではなく、彼らの未知の才能をどう生かしていくかという「共生」を考えなくてはいけないと言われています。ロボット・メカトロニクス研究においては、互いの可能性をより広げ未来を豊かなものにするための、人と「共生」できる“次世代ロボット”を考える必要が出てきたのです。
少子高齢化社会で活躍が期待される“次世代ロボット”
少子高齢化などによる社会課題の解決と経済発展を両立するために、国はサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合させたSociety 5.0の実現を提唱しています。Society 5.0とは、これまでのようにサイバー空間に蓄積されたビッグデータを人の手で分析してフィジカル空間に活用するのではなく、AIが分析してフィジカル空間にフィードバックしロボットなどを通して人間の役に立てる社会のこと。つまり、ビッグデータを生かしたAIやロボットが人間の作業をサポートするしくみを実現しようとしているのです。
Society 5.0の実現を見据え、人間と「共生」できる“次世代ロボット”は多くの社会課題を解決する鍵として注目されています。たとえば高齢者の外出をサポートする歩行支援ロボットや、一人暮らしの高齢者の健康を管理する見守りロボットなどの開発がすでに進行中。高齢者の生活支援だけでなく、労働力不足を解決するために農業、流通、接客販売業など幅広い分野での活躍が、“次世代ロボット”に期待されているのです。
“次世代ロボット”が人間のパートナーになるために
たとえばリハビリ患者さんを誘導するロボットには、患者さん一人ひとりの状態に合わせた動作が必要となります。杖をついている人、腰を痛めている人、麻痺のある人……それぞれの状態を学習して、どのように誘導すれば良いかを判断し調整しなければなりません。また人間とロボットが共生するためには、同じ空間で寄り添えるようにロボットが「体」を持っていることも重要です。患者さんがアームを握るとロボットが体温や血圧を測ってくれる、夜間の薄暗い空間でも隣にいて見守ってくれる、といった“そこにいてくれる”状態が人間に与える安心感もポイントになります。
ロボットに「作業を行わせる」という考え方ではなく、ロボットに「人に寄り添ってもらう」という視点で、ロボットの状況分析能力やセンシング技術が人間の体と心の変化を受け止められるような研究も実際に始まっています。
ロボット開発に欠かせない幅広い分野を実践的に学ぶ神奈川工科大学
ロボットを動かすには、機械工学、電気電子工学、情報工学など、さまざまな分野の工学技術が必要です。また次世代ロボット研究においては、人への安全性や安心感をいかに実現するかを考えるために人体の構造、認知行動学への理解も欠かせません。神奈川工科大学のロボット・メカトロニクス学科では、機械、電気電子、情報の科目に加えて、ロボットに特化したIoTや人工知能技術を学ぶ「知能情報処理」「ロボットとAI」「組み込み機器設計」「Android開発実践」などの科目も設置。
神奈川工科大学の特徴は、学生が「どこに問題があり、どう解決すべきか」を主体的に考えるPBL(Project-Based Leaning)教育を取り入れ、エンジニアに欠かせない問題発見・解決能力を伸ばしている点。学生が主体となってさまざまなロボコンに挑戦したり、企業連携によって研究開発されたロボットたちが展示会に出展されるなど、実社会と関わりながら実践的に学ぶ機会が充実していることもポイントです。
日本工業大学が挑戦する、医療・介護の「今すぐ役立つ装置・システム」づくり
血圧、心拍数、体温などのバイタルデータはわたしたちの体の様子を知るのに欠かせない情報です。少子高齢化により負担が増す医療・福祉の現場で、患者さんや利用者さんの状況をより安全により簡単に把握することで、体調の変化を早期に発見したり、より良い治療・介護に役立てたりできないか?――そんな思いから、日本工業大学 先進工学部 ロボティクス学科の医療福祉ロボット研究室では、ロボット技術を応用して生体情報をより簡単に計測できるセンサ開発・計測データの解析手法の確立などシステム全体の開発を行っています。たとえば背骨が曲がってしまう「側弯症」という病気の発見のために開発した3次元計測システムは、簡易なシステムのため学校検診などでも利用しやすく早期発見に役立っています。
同研究室では、医療・介護分野だけでなく教育用・エンターテイメントロボットの開発も行っており、楽器演奏ロボットの開発などにも挑戦中!人の演奏に近い、“良い音”が出せるように試行錯誤を続けています。
人と協力し社会に貢献するロボット開発を幅広い分野で行う工学院大学
工学院大学 工学部には機械工学科・機械システム工学科・電気電子工学科があります。持続型社会を支える「ものづくり」の魅力が体感できる工学部には、39の多彩な研究室があり、機械システム工学科では人とロボットの共生をテーマにした研究も数多く行われています。
中でもロボティクス研究室では、二足歩行で自律動作が可能な人型ヒューマノイドによる人間の成長を再現する研究、マイクロマシンへの展開を視野に入れた小型機械の研究、治療実習用の患者ロボットの研究などに取り組んでいます。またシステムインテグレーション研究室では、地震・原発・火山などの災害対応ロボットの技術開発、ドローンやロボットを社会でどう実用化するかの研究、遠隔操縦ロボットの操縦インタフェース改善に挑戦中。実際に地下街での災害対応ロボットの実証実験を行い、実用化に必要な問題解決技術に取り組んでいます。このように、工学院大学ではさまざまな課題解決のための視点や技術などを社会と協力しながら実践的に学ぶことができるのです。
おわりに
ロボットを「つくる」「制御する」時代から、ロボットと「共に生きる」時代へ──。複雑化する社会課題に対応するため、人間の力だけで解決を図ろうとするのではなく、ロボットと力を合わせることでこれまでにない解決方法や新しい価値を生み出す必要があるのです。誰もがしあわせに暮らせる未来を拓くための“次世代ロボット”の開発には、大きな可能性が秘められていると言えるのではないでしょうか。