はじめに
急激に進む少子高齢化や、それにともなう人口減少などによって、今後、地域の医療体制を維持することは難しさを増していくことが予測されています。そこで厚生労働省では、薬剤師をはじめとする医療従事者の養成や資質向上を図るため、さまざまな取り組みを進めています。しかし、島しょ部・へき地に目を向けると、すでに薬剤師の不足が問題になりつつあることから、その確保に向けた早急な改善策が求められています。
そこで今回の特集では、島しょ部・へき地で起こっている薬剤師不足の実態について、その地域で研修を行った学生から直接お話をうかがうとともに、薬剤師の確保に向けた大学での取り組みについて紹介していきます。
東京都でも地域によっては薬剤師が不足している?
薬剤師に対する需要は、人口の増減や地域の実情に応じて常に変化しますが、島しょ部・へき地での薬剤師不足の大きな原因のひとつが「地域偏在」です。これは一部の地域に薬剤師が集中し、他の地域ではその数が不足しているアンバランスな状態のことで、特に都市部には多く、地方や過疎地では少なくなる傾向があります。地域ごとの薬剤師の需要と供給の比率を表す薬剤師偏在指標の中でも、たとえば現在時点における地域別薬剤師偏在指標(全都道府県ベースの偏在指標0.99)によると、東京都 1.28、神奈川県 1.12と都市部では上まわっているのに対し、福井県 0.74、青森県 0.78と地方では下まわっていることがわかります。
そして、この指標によれば東京都では薬剤師が余っていることになるわけですが、じつは島しょ部に限っていうと薬剤師の不足は深刻化しています。その背景にあるのが東京都の島しょ部における人口減少です。2035年には2万人を割り込む見込みであり(東京都保健医療局によると2023年12月の人口は24,170人)、高齢化率も2025年に35%を超え、その後も高い水準で推移していくことが予測されています。
こうした現状をふまえて、薬剤師不足の解決に向けた取り組みも進められています。たとえば明治薬科大学では、島しょ部やへき地での医療に興味をもつ学生を発掘するため、2024年度から東京都の八丈島にある八丈病院で、通常の実務実習を終えた学生を対象に臨床研修を開始しています。
研修に参加した学生が語る、島しょ部・へき地医療の実態とは?
今回、インタビューにご協力いただいたのは、八丈病院で実施された研修に参加した、明治薬科大学薬学部薬学科の学生(5年生)です。学生が感じた島しょ部・へき地医療の現状、研修を通じて得られた発見について、お話をうかがいました。
――研修に参加するまで、島しょ部・へき地医療についてどんなイメージをもっていましたか?
Aさん:薬剤師が行う情報提供が、島民の健康の維持・増進に大きくかかわっているのではないかと思っていました。また、地域住民との距離が都市圏と比べてかなり近く、継続的な薬学的管理がしやすいと思っていました。
Bさん:首都圏の病院とは薬剤師としての役割が少し違うのではないかと考えていました。また、薬局が少ないと思うので、医療体制や医薬品の流通、医療の選択肢をどのようにしているのか研修を通して 体験してみたいと思っていました。
――研修中に印象に残っていることはなんですか?
Aさん:命にかかわるような症例であっても、島内に残る選択をする患者さんの強い思いがあり、限られたものの中でどのように工夫して、最大限の治療やケアができるかを多職種のスタッフが連携をしながら考え対応している様子を体験することができました。
Bさん:島しょ部・へき地でも薬剤師の業務は変わらないと感じました。高齢者ばかりというわけではなく、妊婦さんや子供への医療も活発に行われていました。悪天候等で船が到着しない場合、薬剤が1週間届かないこともあるため、ミスや知識不足があると患者さんの命に関わるので、薬の専門家としての知識・技術・経験が強く求められているだけでなく、医療者としての幅広い知識と多職種と円滑に連携するための高いコミュニケーション能力が求められていると感じました。
――研修を受けて、どんな発見がありましたか?
Aさん:緊急時の対応など、島しょ部・へき地ならではの課題に対処していくことにやりがいを感じました。また、都市部とは違った新しいことに挑戦しやすい環境があると感じました。人手不足が原因で行うことが難しい業務や、多職種の仕事を代わりに行う現状もあることを知り、多職種連携のあり方を改めて考えるきっかけになりました。
Bさん:最近では薬剤師の業務の中でも対人業務が注目されていますが、対人業務を適切に行うためには対物業務で培った知識や経験が不可欠だと改めて感じました。また、島しょ部・へき地は都市部とは医療環境の違いがありますが、患者さんと信頼関係を築くことの大切さや、職種間でコミュニケーションをとることの重要性について、改めて研修を通じて学ぶことができました。
みなさん、研修に参加することで、多くの学びや気づきを得られたようです。
明治薬科大学薬学部の「地域枠選抜方式」とは?
このほかにも明治薬科大学では、薬剤師不足の解決に向けた取り組みを行っています。それが「入学者選抜試験 地域枠選抜方式」です。厚生労働省及び文部科学省の発表に基づき、薬剤師不足が予想される県、または薬学部が設置されていない県を含めた合計21県(※)の出身者で、大学卒業後に薬剤師として出身県にUターン就職することを志す人を対象に、学費を支援します。
(※対象県:青森、秋田、山形、茨城、群馬、富山、福井、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、奈良、鳥取、島根、高知、佐賀、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)
支援希望者に対しては、大学卒業後に出身所在の県に9年間薬剤師として勤続することを条件に、奨学金として授業料相当額を6年間全額支給(134万円×6年間)。在学中に出⾝所在の県に薬学部が新設された場合でも、奨学⾦は継続されます(ただし、同県にUターン就職をする条件も継続)。
おわりに
ここまで、島しょ部・へき地で起こっている薬剤師不足の実態と、薬剤師の確保に向けた取り組みについて紹介してきました。なかでも明治薬科大学では、島しょ部の病院での臨床研修や地域枠選抜方式を通じて、薬剤師不足の解消に力を尽くしていることをご理解いただけたと思います。
今回の特集をきっかけに、明治薬科大学の魅力あふれる取り組みに興味をもった方は、下記のサイトに大学の詳しい情報が掲載されていますので、入試情報とあわせてぜひチェックしてみてください。