はじめに
国際基督教大学(ICU)といえば、緑豊かな一つのキャンパス内に人文科学、社会科学、自然科学分野を有し、少人数・対話型の教育環境、日英バイリンガリズム、高い外国籍教員比率など、真のリベラルアーツ教育を実践できる環境を備えていることで知られています。また、文理を超えて横断的に学べる環境や日常的に日英両語で学べる環境により、自然科学系の研究では一般的な日本の大学の理学部などでは得られない、たくさんの学びのチャンスが開かれています。
そこで今回の特集では、ICUならではのリベラルアーツ教育や自然科学系の学びの魅力について、教養学部アーツ・サイエンス学科で自然科学分野を専攻する武知可夏さん(4年、物理学メジャー/情報科学マイナー)と牧野かれんさん(4年、物理学メジャー)にお話をうかがいました。
先輩たちは大学でどんなことを学んでいる?
――どんなきっかけからICUを選びましたか?
牧野さん:私は高校時代、何ごともクリエイティブに楽しく過ごすことに全力を尽くしていました。ただ、進学を考えたとき、自分が本当に好きなことがわからなかったので、リベラルアーツ教育や留学が充実したICUなら、様々な分野を横断して学びながらそれを見つけられると思いました。
武知さん:高校時代はピアノに専門的に取り組んでいたので、元々は海外の音楽大学に進学しようと考えていました。しかし、コロナ禍で海外進学が難しかったこともあり、興味があった物理学と化学、そして音楽も学べるICUに進学しました。1・2年次で幅広く学び、2年次の終わりに専修分野(メジャー)を選べる点を魅力的に感じました。
――おふたりが取り組んでいる研究について教えてください。
牧野さん:数学のモデルを利用して素粒子を表す研究に取り組んでいます。私は大学3年次にアメリカへ留学し、数学を使って物理の法則をものすごく美しく、総括的に表す方法を知り、感動したことからこの研究を始めました。将来は素粒子研究を通じて、いまだ解明されていない宇宙の本当の姿を追究していきたいと思っています。
武知さん:私は、銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの成長について研究を行なっています。国立天文台の研究体験プログラムに参加したことをきっかけに、この研究を始めました。将来は、超大質量ブラックホールブラックホールの形成・成長プロセスを含めて、現在の複雑な宇宙の構造がどのように形成されたか探っていきたいです。
文理にわたるたくさんのメジャーのなかから「物理学」を選んだ理由とは?
――おふたりが「物理学」をメジャーに選んだ理由を教えてください。
牧野さん:「世界とは何か」という疑問を言葉で解決していく哲学と、数学で答えを見いだしていく物理に興味がありました。ただ、実は高校時代は数学が苦手だったので、物理は好きだったものの、大学で物理を専攻にできると思えるほどの自信や意欲まではありませんでした。しかし、ある教員に「大学数学は好きな人ではなく続けられる人がやるもの」と言われて、それならば私にもできると思えるようになりました。
だから、当初は哲学と物理学の両方を専修分野にするダブルメジャーも考えましたが、留学をきっかけに「より完璧に世界の謎に答えられるのは物理だ!」と思ったので、物理学をメジャーにしました。
武知さん:入学当初は物理か化学で迷いましたが、大学で授業を受けてみると物理の方が面白いと感じたからです。高校の物理は、内容が断片的だと感じることもありましたが、大学の物理では、より体系的に物理学を学ぶことができ、数学を用いて自然現象をモデル化できることに強い魅力を感じました。また、プログラミングやデータサイエンスにも興味があったので、「物理学」をメジャー(主専攻)に、「情報科学」をマイナー(副専攻)に選びました。
牧野さん:ICUでは、文理にわたる31メジャーの中からメジャー選択を行えるだけでなく、シングルメジャー・ダブルメジャー・メジャー/マイナーという選択の幅があり、自分の興味・関心に合わせた選択ができるのも大きな特長。また、自分のメジャーではない、他のメジャーに設置された授業であっても履修できるのもICUならではの特長です。だから、自分が貪欲であれば、いくらでも専門知識を得られるので、その点はカリキュラムの決まっている大学にはない魅力だと思います。
武知さん:牧野さんのいう通り、一般的には自分の専攻を決めたら、その専攻内の授業を履修することになるけれど、ICUの良さは、自分の専攻外の専門的な授業も受けられるところ。例えば、数学の専門的な内容を学びたければ、数学専攻の授業を受けられるし、異なる分野を専門としている学生と一緒に授業を受けることで、視野を広げることができます。
牧野さん:私の場合、大学で数学を学ぶことでその有用性を実感できるようになって、数学の視点からも物理をより深く追究できるようになりました。それはICUで幅広く学べたからこそできた興味深い体験でした。
武知さん:宇宙物理の分野では大規模な観測データから効果的に物理量を抽出することが求められるので、私も情報科学まで幅広く学べた経験が役に立っています。
牧野さん:ただ、私は2年次の終わりのメジャーを選ぶときには正直そこまで心が決まっていなくて、違うと思ったらその時点で変更すればいいや、みたいな気持ちもありました。
武知さん:実際、途中でメジャーを変える学生もいますよね。
(※メジャーを選択/変更する際には、各メジャーの選択要件を満たしている必要があり、メジャー選択/メジャー変更できる期間も決まっています。)
先輩たちが感じる、ICUで学ぶメリット
――1年次のELA(リベラルアーツ英語プログラム)はどうでしたか?
武知さん:必修でコマ数が多く、時間割が固定されていたので、他の必修科目や興味のある科目との調整が大変でした。
牧野さん:私もそうでした。 でも、今思い返すとELAのおかげで英語力を鍛えられました。特に英語の論文を読んだり、書いたりする能力が磨かれたと思います。
武知さん:日本の大学にいながら実践的な英語力を磨けて、その後の勉強や研究に役に立っています。特に自然科学系の研究をする人にとって英語は必須なので、メリットは大きいです。
牧野さん:基本的に物理学のコミュニケーションは英語で、論文も英語。ICUだと当たり前すぎてありがたみを忘れているけれど、日本語で学んだことを英語に訳すのではなく、最初から自然科学系の授業を英語で履修することができるのは日本の大学では珍しいと思います。
武知さん:インプットとアウトプットの両面で日常的に英語が使用できる環境は、研究活動の幅を広げてくれたと感じています。私は現在、学術誌に投稿する論文を執筆しているのですが、これも英語で授業を受けた経験が役に立っていると思います。
――研究に対するICUのサポート体制について、どう感じていますか?
牧野さん:もともと少人数制の授業が多いうえに、特に自然科学系は学生が少ないので、先生方からとても手厚いサポートを受けられると感じています。例えば、私は履修している授業とは別にトポロジー(位相幾何学)について興味があったんですが、先生に指導をお願いしたところ、夏休みに時間をつくって特別に講義を開いてくれました。知りたいことがあればいつでも先生に聞きに行くことができますし、研究自体もつきっきりで指導してくださっています。自然科学分野では、1対1でのゼミを4人くらいの学生に対して行っている先生もいらっしゃるくらい手厚いです。
武知さん:授業で開講されていない分野など、より発展的な内容について学びたいという場合には、「物理学持論」という授業で、自分の興味のある教科書を持ち寄り、教授の指導のもとでその内容について学ぶこともできます。
加えて、ICUには国立天文台やNICT(情報通信研究機構)、東京大学など、大学内外を問わず様々な教育、研究機関の先生や研究者から研究を指導していただいている学生もいます。こういう研究がしたいという希望を学内外のリソースにつないでくれて、そうした学生にフレキシブルに対応してくれる大学のサポート体制にも助けられました。
牧野さん:あと、私はどの大学にもあると思っていましたが、自分が授業をとっているかどうかに関係なく、先生ごとに決められた時間にオフィスを訪ねれば、自由に話をしたり、質問したりできる「オフィスアワー」が設けられているのもありがたいです。
武知さん:それは私も同感です。大学では本当にたくさんの先生や先輩にお世話になったので、これからは自分が次の世代に返していきたいです。
牧野さん:私も大学で受けたサポートを、学ぶことの楽しさを次の世代に受け継いでいくことで還元していきたいと思います。
――最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします!
牧野さん:チャンスがないと思ったのなら、自分からチャンスを探しにいきましょう。横のつながりを自主的に広げていくことも大事。いろんな人の話を聞いて後悔しない選択、あるいは自分が満足できる選択をしてください!
武知さん:幅広く学び、多様な考え方や知識を身につけることが自分の土台になります。その過程で、さらに追究したいことを見つけてみてください。何か一つのことを追究するという経験は、これから何か他のことを追究しようとしたときにもきっと役立つはずです!
おわりに
先輩たちのお話はいかがでしたでしょうか?
今回のインタビューをきっかけにICUのリベラルアーツに興味をもった方、英語で自然科学系を学べる環境に魅力を感じた方は、大学に関する詳しい情報が下記のサイトに掲載されていますので、ぜひチェックしてみてください!