【スタプラ×ミライの武器 Vol.2】𠮟られたって考えを変えなくてもいいときがある

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はじめに

あなたはいまなにか夢中になれることがありますか? 子ども時代に不登校を経験し、いまでは世界が注目するロボット開発者として活躍する吉藤オリィさんはこう言います。

“これからの時代は、たとえ「人と同じこと」「我慢してやるべきこと」だけを上手にこなせても、生きていくのは難しくなる。きみが「夢中になって取り組むこと」は、この世界でまだ見つかってない無数の価値や課題を見つけることになる。”

書籍「ミライの武器〜夢中になれるを見つける授業〜」(吉藤オリィ著)の中から「夢中になれるほどやりたいこと」を見つける方法をご紹介します。

他人にしかられたって考えを変えなくてもいいときがある

小学校のとき、同級生にケガをして一時的に車椅子に乗っている友だちがいた。その子の車椅子を借りて、私が乗って遊んでいたら、先生にとても怒られた。「車椅子は“けが人や障害者が仕方なく使うもの”であって、遊ぶものじゃない」んだって。

私はそのとき強烈な違和感をもったんだ。私はべつに危険な乗り方をしたわけでも、その子から無許可で奪ったわけでもない。これって、良くないことだろうか?って。

私はメガネをかけていた。そのメガネを友だちに「かけてみる?」といって貸してみたり、誰かとメガネを交換して「わあ、おまえのやつ世界がゆがむわ!」といって盛り上がったりするのは日常だ。これは別に怒られたりしないよね。

好きで、伊達メガネをかけている大人だっている。おしゃれのひとつだよね。車椅子は、なんでそうじゃないんだろうって思った。

メガネを外せば見えないのだから、メガネだって障害者が使う道具だ。コンタクトレンズもそう。私はICL※(インプラント・コンタクト・レンズ)という技術で、コンタクトを目の中に移植している。そういう技術によって、障害者は「困っていない」状態になる。メガネをかけないと文字が読めない人のことを、きみは障害者だと思う? もはやメガネという発明によって、障害者は障害者ではなくなった。すばらしいよね。メガネ、コンタクト、ICLをつくってくれた人は偉大だ。

もしもそれらが存在しなかったら、私のような視力の弱い人間はとても生活するのに苦労していたはずだよ。それだけで学校の成績が下がって、志望校に行けなくなるかもしれない。私は昔、視力回復トレーニングとして1日30分くらい遠くを見る、目の運動などいろんなことをやらされた。けれど、効果があったかどうかはまったく不明。

でも、メガネをかけたら一発で困らなくなった。では車椅子は、障害者を「困ってない」状態にできているかというと、そんな気はしない。まだ「発明が足りていない」といえる。もちろんこれは車椅子だけの話じゃない。これからの時代を生きる上で、この世界に存在するモノ、サービス、技術、そして人の「考え方」までも、ありとあらゆるものが「ぜんぜん発明が足りていない」し、「まだまだ山ほど改良点がある」 そう思えるんだ。

しかられたけれど、車椅子で遊んだ経験があったからこそ、私は車椅子の改良の研究に夢中になれたし、高校生のときに科学の世界大会で3位を受賞できたんだと思う。どうしてこんな扱いを受けるの?どうしてそんなことでしかられるの?も“違和感”をもったら、その気持ちを大事にしてほしい。世の中はなにも完成していない。なにかがおかしいと思える限り、私たちにはできることがある。

※ICL=眼内コンタクトレンズ。適応年齢は18歳以上だと言われている。

失敗してもいいから、先に形にしてみる

私は小中学校にはほぼ行かずに、工業高校に入り、そこで師匠たちと「かっこいいSFな車椅子」をつくった。

ピンクのつや出し塗装の曲線ボディ、ヘッドライトサイドミラー、ウインカーも搭載、バンパーもついていて、前輪駆動の3輪式、タイヤの厚みは10センチ以上、さらにジャイロセンサーの働きで傾きを感知、自動で水平を保つ水平制御機構付き、さらに片輪で段差を登れるという超高性能な車椅子だ。私たちはこの車椅子を“電脳車椅子”と名付けた。

現在でも私は車椅子を4台持っていて改造を続けているんだけれど、たとえば電動車椅子は便利だ。腕が動かしにくい人でも、レバーを倒すだけで坂道もぐいぐい上がってくれる。でも、車椅子のレバーを自分の手で倒せない人もいる。たとえばALSという病気の人だ。

ここで「ALS」という病気について簡単に説明しておく。「ALS」とは手足の筋肉とか、呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなって、やがて寝たきりになっていく、まだ原因も治し方も見つかっていないとてもこわい病気のこと。1年間に約1000人の日本人が発症している。病気の進行が早くて、その人は呼吸器をつけないと生きていけなくなる。意識ははっきりしているのに、なんにもできない。手も足もまったく動かない。かゆくてもかけない。考えることはできるのに、しゃべることができない。つらいよね。でも多くの場合、目だけは最後まで動かせる。だから目の動きを感知すれば、 車椅子を動かせるじゃないかと思い、私は視線入力センサーで動かすことができる“新しい車椅子”をつくった。

「でもさ、目だけで動かすなんて危ないんじゃない?」って多くの人に言われた。わからないときはつくってみると決めている。つくって、乗ってみたら、予想どおり難しかった。他の人にも「だから言ったじゃん」って笑われた。でも、“なにが難しいのか”がわかった。私たちはよくよそ見をするし、目線ってけっこうあちこちに泳ぐものなんだ。だから、目線が泳いでしまうことを前提に、プログラミングし直したら、うまく操作できる方法がわかった。

いまでははじめて乗る人だって、5分くらい練習すれば乗りこなせるようになったよ。なんでもやってみなければ、わからないことばかりなんだ。「でもさ」と問題点を考えるよりも、先に手を動かしてしまった方が早いことも多い。この視線で操作しやすくなった新しい車椅子も、形にしてみたら、さらに課題が見えた。このままじゃ乗れないんだ。

ALSの患者さんたちは、大きな呼吸器を積んだ自分専用のオーダーメイド車椅子に乗っている。だから、普段乗っている車椅子から私がつくった車椅子に乗りかえないといけないが、それがかなり難しい。じゃあどうすればいいか?その人の車椅子を、いきなり“新しい車椅子”に改造する? いいね。でも、うまく運転できるかわからないからできればその前に体験しておきたいよね。

私は思った。車椅子ごと乗りこめる「車椅子用の車椅子」をつくればいい。早速、ホームセンターで買ってきた木材で台車をつくった。そしてそこに、目を動かすだけで移動や文字入力ができる装置をつけた。プログラムは中学生でもわかるような言語で書かれている。開発の助手をつとめた人間は、当時まだ高校1年生だった。試作品はすぐALSの患者会にもっていき、多くの患者さんたちに車椅子ごと乗って遊んでもらった。

みんな世界初の“車椅子の車椅子”をものすごく楽しんでくれたよ。そして、私はまたそこで改良が必要な“課題”を見つけた。こうした人類初の挑戦から見つかる課題は、“全人類でいまだ自分しか知らない問題”というわけだ。ワクワクしないかい?

ミライの武器~「夢中になれる」を見つける授業~(サンクチュアリ出版)

吉藤オリィ(よしふじおりぃ)

株式会社オリィ研究所代表共同創設者取締役CEO。ロボットコミュニケーター。
デジタルハリウッド大学大学院特任教授。分身ロボット「OriHime」の開発者。
趣味は折り紙。
小学校5年から中学2年まで不登校。
高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004 年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)にて文部科学大臣賞を受賞。
翌2005 年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。 その時の出会いと自身の
経験から「孤独の解消」を人生のテーマと定め、高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学にて自身の研究室を立ち上げる。
その後、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。株式会社オリィ研究所を設立し、「OriHime」の他、ALS等の難病患者向け意思伝達装置「OriHime eye」、車椅子アプリ「WheeLog!」、分身ロボットカフェなどを開発提供し、2016 年には「Forbes 誌が選ぶアジアの30 歳未満の30 人」に選ばれた。
著作に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)『サイボーグ時代』(きずな出版)がある。

この記事を書いた人
    Studyplus進路
    【なりたいが広がる「未来の自分」発見メディア】 受験のための勉強ではなく、自分の未来のために勉強へ。 本気で取り組みたい学問や、将来就きたい仕事を「発見」して、受験勉強を自分の未来のための通過点に変えていこう。

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