【スタプラ×ミライの武器 Vol.4】「自分」という名の思い通りにならない乗り物の操縦方法とは?

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はじめに

あなたはいまなにか夢中になれることがありますか? 子ども時代に不登校を経験し、いまでは世界が注目するロボット開発者として活躍する吉藤オリィさんはこう言います。

“これからの時代は、たとえ「人と同じこと」「我慢してやるべきこと」だけを上手にこなせても、生きていくのは難しくなる。きみが「夢中になって取り組むこと」は、この世界でまだ見つかってない無数の価値や課題を見つけることになる。”

書籍「ミライの武器〜夢中になれるを見つける授業〜」(吉藤オリィ著)の中から「夢中になれるほどやりたいこと」を見つける方法をご紹介します。

なんのためならがんばれるかを思い出す

不登校時代に孤独を味わったことをきっかけに、「孤独の解消」というテーマで15年ほど活動している私だが、ひとりぼっちでいることも楽しい。矛盾しているようだけど、自分が望んでひとりになり、困っていない時間は、私の言う「孤独」ではない。なにかをつくりたい、表現したいと思うとき、私は誰にも邪魔されず完全に自分の世界に入りこむことができる。そのために私は「ワクワクする」という力を使う。

いまいち言葉にするとかっこよくないが、これが完成したら驚いてくれるかな、喜んでくれるかもな、こんなことになったらすごく楽しいだろうなというこの“ワクワク感”、私の場合はこの感情さえあれば、自分でもあとで驚くほど夢中になって行動することができる。

きみも友だちの誕生日を祝うためのサプライズや、いたずらのための落とし穴を仕掛けたりしたことはないかい? きっとそのときは“ワクワク感”があったり、謎の行動力を発揮したはずだ。

一見大変そうな仕事でも、私が「きっとやりとげられるだろう」という感覚を持てるのは、この「ワクワク感」をコントロールしているからだ。やらなくてはいけないけれど、なかなかやる気が出ないときは、そのまま手を出してしまうことはしない。まずは「どうすれば自分をワクワクさせられるか?」を探すことからはじめる。

なにもワクワクすることが思いつかない日もある。そんなときは外をしばらく散歩してみたり、ゲームで遊んでみたり、たき火をしたり、人と話したり、折り紙を折ってみたり、CADを描いてみたりする。スイッチを入れる方法は人によって違う。成績がアップすることや、自分へのごほうびが原動力になる人もいれば、家族の笑顔や他人の要望にこたえること、ものづくりをすること、特定の誰かに認められること、ただ予定通り完璧に終わらせること、ただひたすらそれをやること自体が原動力になる人もいるだろう。

自分はなんのためなら一番がんばれるのか。この「自分という全然思い通りにならない乗り物」の動力源を知り、定義しておくことは大きな力になる。

きみの能力はきみの努力だけでは決まらない

「なにをしたいか」が見つからない。したいことはあるけれど、いまするべきことが見つからない。いまするべきことはわかるけど、やり方がわからない。やり方はわかるけれど、誰の許しを得ればいいのかわからない。一体自分はどこにあるのか。人間は生きているだけで、実にいろんな「わからない」に直面することになる。だから、たくさんの人や考え方に出会ってほしい。人と会って話すことは時間が取られるし、苦手なことかもしれないが、自分でも気づいていない才能や視点、 好奇心の存在に気づかせてくれるのは「人との交流」だからだ。

いい大学を出て、いい会社に入る。たくさん稼いで、いい人と結婚して、家を買って子どもをいい子に育てる、そんな“幸せ”な人生のレール。そのためのアドバイスは世の中にたくさん存在する。でもその価値観は、きみの「これが本当にしたいことなんだろうか」「どう生きるのが幸福なんだろうか」という不安を解消してくれるだろうか。

学校では成績で、運動会では運動能力で、SNSではフォロワー数で、大人になれば年収や立場で、住んでいる地域や子どもが通う学校で評価される。そんな世界が生きやすい人にとってはいいと思うが、楽しめない人や、疲れてしまう人もいるだろう。

自分が間違っていると思い、人生から逃げ出したくなるときもある。でもふとした“出会い”によって、「世界はひとつじゃなかった。そんな考え方もあるんだ」ということに気づかされ、一瞬で視界が開けるような感覚を味わえることもある。学校や職場、所属するコミュニティがひとつしかなければ、そこでの評価、価値観が世界のすべてだと錯覚しやすい。それはとても変化に弱いし、生きにくい。

いろんな世界をのぞき見して、いろんな価値観と出会ってほしい。いくつかの コミュニティに飛びこんでみたり、それが怖かったらせめて眺めたりしてみてほしい。たとえば、私のような黒い白衣を着ている人はあまり多くない。15年前、この格好を拒絶する人は多かった。受け入れてくれる人を探すというのは、とても難しいことだった。高専時代のクラスメイトに友だちはできなかったし、親は悲しんだ。そのときは、それが現実だと思った。おかしいのは自分なのかもしれないと思った。

もしきみが1万人に1人しか理解できない「好きなこと」を持っていたとしたら、小さなコミュニティの中でそれを周囲に理解してもらうのは難しい。でも、ネットの世界は広い。「それすごくいいね!」「僕もたったいま白衣を黒く染めたよ!」「僕は赤い白衣を作ったよ!」「緑の火炎放射器を撃つなら白より黒い白衣だよ!」と言ってくれる味わい深い変人たちと出会うことができた。ワクワクした。場所や環境とは関係なく、自分とつながった感性の近い人。周囲とはわかり合えない価値観を共有できる彼らとはとても仲良しになる可能性がある。

実際そうだった。いまでも関係は続いているし、中には多くの人が知るような活躍をしているような人もいる。いまはもう、協調性や我慢によって友だちをつくらなくてはいけない時代じゃない。自分はこういう人間だと、自分の表現を外に向かって広く発信するか、あるいは勇気を出して新しいコミュニティに一歩飛び込んで発信してみる。すると自分のことを面白いと思った人が声をかけてくれたり、あるいはこちらから話しかけたりする場合にも、自分がどんな人間なのか理解してもらったりしやすく、興味をもってもらえたら返信をもらえる機会が増える。

そして自分の特性に合った、「なにをしたいか」がまだわからない人も、いろんな人と交流をすれば自然にはっきりしてくる。「あの時、あの場所にいてくれたおかげで、いまの自分はある」と多くの大人たちは言う。15歳までひきこもりで、人と話すことが苦手だった私も、たくさんの気の合う、憧れる人たちと会うことができたことでいまの私がある。運が良かったんだろうと言われればそのとおり。しかしよく考えてみれば、これだけ多くの人と会ってきたのに、合わない人の方が圧倒的に多かったので、むしろ運は悪い方だったのかもしれない。

これからどんな人と出会うかで、きみの人生は大きく変わるだろう。良い人と出会うためには、出会い方だけではなく、出会う数も大切だ。トライ&エラー、たくさん試すことだ。自分をいじめたり、反対したり、無視したり、傷つけてくるのも人だが、ほめてくれたり、才能だと言ってくれたり、価値を見出してくれて、自分が成長する機会を与えてくれるのも、また人なのだ。

いつか、自分とすごく気の合う人と偶然出会える確率を上げる、“コミュニケーションの福祉機器”を、私はつくりたいと思っているよ。

ミライの武器~「夢中になれる」を見つける授業~(サンクチュアリ出版)

吉藤オリィ(よしふじおりぃ)

株式会社オリィ研究所代表共同創設者取締役CEO。ロボットコミュニケーター。
デジタルハリウッド大学大学院特任教授。分身ロボット「OriHime」の開発者。
趣味は折り紙。
小学校5年から中学2年まで不登校。
高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004 年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)にて文部科学大臣賞を受賞。
翌2005 年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位に。 その時の出会いと自身の
経験から「孤独の解消」を人生のテーマと定め、高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学にて自身の研究室を立ち上げる。
その後、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。株式会社オリィ研究所を設立し、「OriHime」の他、ALS等の難病患者向け意思伝達装置「OriHime eye」、車椅子アプリ「WheeLog!」、分身ロボットカフェなどを開発提供し、2016 年には「Forbes 誌が選ぶアジアの30 歳未満の30 人」に選ばれた。
著作に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)『サイボーグ時代』(きずな出版)がある。

この記事を書いた人
    Studyplus進路
    【なりたいが広がる「未来の自分」発見メディア】 受験のための勉強ではなく、自分の未来のために勉強へ。 本気で取り組みたい学問や、将来就きたい仕事を「発見」して、受験勉強を自分の未来のための通過点に変えていこう。

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